何年か前のクリスマスイブのこと。
ふと、入口に目をやると小学生くらいの男の子が立っていた。
”そうだよ何か修理?”
”これを見て欲しいんですが。”
カバンから取り出されたのは古いアンバサダー5000、回転がかなり悪いがオーバーホールで直りそう。
”これ、君の?”
”ちがうよ、僕のお父さんのリール。”
”お父さんから修理に持って行ってって頼まれたの?”
”・・・・・・・。”
聞けば、彼のお父さんは失業中でリールを直したいのだがそのお金がないらしい。
そして、自宅から自転車で2時間かけて来たらしい。
”僕、お金を持ってきたからコレで直してください。”
と言って貯金箱を取り出した。
中身は小銭で640円。
うちのアンバサダーのメンテナンスは1500円だから全然足りない。
しかし、わざわざリールを持ってきた子供を追い返す訳にはいかない。
”それじゃあこうしよう、君も一緒にリールのメンテナンスを手伝うんだ。ピカレスクと君からのお父さんへのクリスマスプレゼントだ”
”うん、ありがとう!!”
という訳で、共同でのメンテナンス作業が始まった。
私がリールをバラす。
そして彼がパーツをブラシで磨く。
綺麗になったパーツを組み付けていく・・・・・・
”このリールなんで赤いか知ってる?”
”知らない”
”今から60年ほど前のクリスマスに発売されたからだよ!”
”ほんとう??”
”ホントだよ!” ←本当です。
1時間後、綺麗になって組み上げられたアンバサダー5000は本来の性能を取り戻した。
”さあ、これで完成。これを持って早くおうちへ帰るんだ!”
”うん、本当にありがとうございました!!” と、深々と頭を下げた。
いそいそと帰路に着く小学生。
お父さんの喜ぶ顔を夢見ながら。
赤いアンバサダーはクリスマスの色。
完
※この話は2年前のクリスマスに投稿した記事ですが、ブログを消されてしまったので再録です。